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経済から歴史を学ぼう(後編)

紙幣の誕生

経済から歴史を学ぼう(前編)はお金の正体と貨幣誕生のお話でした。
お金の正体は信用です。
信用があればこそ、お金によって物の売買ができるのです。

金や銀がそのまま素材として作られた金貨や銀貨は、その物自体に価値があります。
その物自体に価値があるので、安心して貨幣として使用されました。
揺るぎない信用があったと言って良いでしょう。

ところが金や銀は「重い」という難点がありました。
持ち運びには一苦労でした。

そこで考えだされた新たな貨幣として、紙幣(しへい)が登場することになります。

紙幣は安価に作れ、持ち運びは断然楽です。
現代社会でも扱われていますから、非常に画期的な発明であったことは確かです。

ただ問題は、紙切れに対していかに信用を持たせるかです。
金貨や銀貨、小判と違い、紙切れにはそれ自体価値がありません。
誰もが紙幣を疑いました。

「こんな紙切れに価値はあるのか?」
当然そう思うはずです。

そこで、考えだされたのが、兌換紙幣(だかんしへい)です。

ちょっと言葉は難しいですが、兌換(だかん)とは、交換可能という意味です。
何と交換可能か?
金(きん)と交換可能なのです。

例えば、一万円札は、一万円分の金(きん)と交換可能にしたのです。

このようにして、ただの紙切れに信用を持たせることに成功しました。
ただし、これには条件があります。
実際に国が金(きん)を保有している分しか、国は紙幣の発行はできません。
金(きん)の量より多く紙幣を発行すれば、金(きん)と紙幣を交換できない人が出てきてしまうからです。
これでは紙幣の信用が失われてしまいます。

何度も言うように、お金には信用が必要です。
信用がなければ、お金は存在できません。

国家が金(きん)の量に応じて紙幣を発行する制度を金本位制(きんぽんいせい)と言います。

金本位制(きんぽんいせい)

かつて、日本も金本位制(きんぽんいせい)を採用していました。
これは、日本が保有する金(きん)の量の分だけお金を発行出来るシステムです。

仮に日本が10億円分の金(きん)を保有していれば、10億円のお金を発行できるのです。
一万円札を持っていれば、いつでも一万円分の金(きん)と交換できるので非常にシンプルです。

この制度は、日本だけではなく世界各国が採用していたシステムです。
非常にわかりやすく、等価の金(きん)といつでも交換できたので、お金に対する信用も自然と生まれます。
言うなれば、金(きん)が国際通貨として使われているイメージです。

実際に金(きん)を流通させるのは不便ですので、便利な紙幣が使用されているだけです。
その紙幣を等価の金(きん)と交換できるということはすなわち、金(きん)が国際通貨として使われているということです。

しかし、一見シンプルですが、この金本位制にも問題があります。
自ずと金(きん)の保有量次第で、国に対する信用が左右されてしまうことです。
金の保有量が少ない国のお金は、信用が低くなってしまいます。

そこへ行くと、アメリカの金(きん)保有量は群を抜いていました。
第一次世界大戦後、世界恐慌が始まり一時は大混乱に陥ったアメリカでしたが、そこはさすが大国アメリカです。
アメリカはその窮地を乗り越え、またもや経済大国に躍り出ます。

アメリカは、第二次世界大戦後、圧倒的な金(きん)の保有量を誇りました。
当然、アメリカへの国際的信用は高くなります。
その絶大な信用を背景に、やがてドルが国際基軸通貨として使われるようになります。
これを金・ドル本位制と言います。

大国アメリカへの国際的な信頼、圧倒的な金(きん)の保有量により、アメリカドルが国際基軸通貨として使用されることになりました。

国際基軸通貨とは、固定相場制により、ドルを軸に、他国の通貨価値を固定することです。
日本円で言えば、この時1ドル360円という固定相場です。
1ドルは常に360円で取引出来ます。
固定されているので、輸出輸入も安定して行われることになります。

変動相場制のように、円高だから輸出産業に厳しいとか、円安だから海外製品が高くなるといったことはありません。

以上のように、固定相場では貿易の安定化を図れるメリットがありました。

ところが、これにも問題がありました。

第二次世界大戦後のヨーロッパ復興と、日本の高度経済成長期により、アメリカは貿易赤字に転じていくことになります。
これまで輸出輸出で他国の金(きん)を吸収していったアメリカでしたが、輸入に転じることにより金(きん)が放出されていくことになります。
次第にドルが外国に流れ、金(きん)が激減していきます。
さらにアメリカの経済に打撃を与える事件が起きます。

ベトナム戦争の長期化です。
1964年にアメリカが介入したベトナム戦争は、思ったよりも長期化し、軍事費がかさみさらにアメリカ経済が悪化していくのです。
こうした危機から、アメリカのニクソン大統領は、金・ドル本位制をやめてしまいます1971年(ニクソン・ショック)

このような経緯で、金(きん)を共通価値とする経済システムは、今のところ終焉しました。
今のところというのは、今後金本位制に戻る可能性は否定できないからです。

日本も現在は金本位制の採用はしていません。
しかし、いきなり金本位制をやめたからとは言え、人の思い込みはなかなかなくなりません。
「一万円札は金(きん)一万円札分の価値があるのだ」という固定観念が国民には根付いており、ある意味、ただの紙切れに一万円札分の価値があると思いこんでしまっている状態と言えます。

しかし、それは決して騙されている状態ではありません。
金本位制をやめた結果、お金は金(きん)とは交換できなくなりました。
しかしお金に対して、国家が保証するという新しい概念が生まれたのです。

管理通貨制度へ

金(きん)と紙幣の交換がなくなり、新たに生まれた制度は管理通貨制度と言います。

この制度では、各国は自国の金保有量に関係なくお金を発行することができます。
言ってしまえば好きなだけです。

「え!?そんなことをして大丈夫なの!?」と思ってしまいますね。
お金をむやみに発行すると、お金の価値が下がり、物の価値(物価)があがる現象が起こります。
これをインフレーションと言います。

100円で買えていたパンが1000円出さないと買えない。
極端な例ですが、これがインフレーションです。
国内がこのように混乱してしまうのは、国際関係上も良くありません。
日本への信用低下を招くからです。

よって、好きなだけお金は発行できますが、好き放題お金を発行して良いわけではないのです。
そこで日本銀行が発行量を調整することになります。

国債(こくさい)

国債(こくさい)とは国の借金のことです。
言うなれば、これもただの紙切れですが、国が発行する証書ですので信用はとても高いです。
この国債(こくさい)を国が発行し、日本銀行が引き受け(購入)て、その国債分だけお金を発行することになるのです。
※実際は国債はいったん一般銀行や個人が購入することになります(日銀直接引き受け禁止)

国は国債を利用し、不景気ならばお金が社会に出回るようにし、景気をあげようとします。
借金というと聞こえが悪いですが、国の経済活動が円滑に回るようにするための投資と考えると良いでしょう。

以上のように、管理通貨制度では、国は好きにお金を発行して良いのですが、流通量をコントロールしながら発行することになります。
日本でそのコントロールを行っているのが日本銀行です。
景気が悪い時はお金の流通量を増やし、良い時は流通量を減らすといった金融政策を行うことになります。

お金の価値は国の信用で決まる

金本位制では、金の保有量によってお金の発行量が決まりました。
管理通貨制度下の変動相場制では、国家の信用がお金の価値を決めます。

例えば日本の景気が良ければ、海外の投資家は日本企業の株を購入しようとします。
日本の株は円で購入しますから、ドルからいったん円を購入します。
円が欲しい。つまり円の需要が高まりますから円高となります。
裏を返せば日本への信用が高い時です。

逆に日本の業績が思わしくなければ、日本の株を購入しないので円安になります。

それから日本が戦争に巻き込まれそうになったり、社会情勢が不安定になったりすると日本への信用がさがることになり、結果、円安になったりします。つまり日本への信用が低い時と言えます。

実際はそこまで単純ではありませんが、円高円安になる仕組みがなんとなくおわかりいただけたでしょうか。
国家に対する信用度によって、その国のお金の価値が決まるのです。

円高円安

昨日は1ドルを買うのに100円支払っていたものが、今日は1ドル110円で支払うことになる。
例えばこの例では、円安ドル高となります。
昨日100円出せば買うことができた1ドルが。今日は110円出さなければ1ドルを購入できなくなったのです。
ドルに対して円の価値が安くなったのです。

こうした円とドルの価値が、日々変動しています。
国内の景気変動や政策変換など、外国から見た日本への信用が変化することで、この変動は起こるのです。

これが国の信用によってお金の価値が変わると言う意味です。

円高だと、安くドルを購入できるため海外旅行が安く行けるとか、外国製品を安く購入できる(つまり輸入がお得)などのメリットがあります。
だからと言って円高が良いかと言えばそうとも言えません。
円が高いと外国は日本の製品を買うことをしぶります。
つまり日本の輸出産業が赤字になります。

国と国が良い関係で付き合っていくためには、これら経済の動きを注視しなくてはなりません。
自国本位な経済活動を展開していると、思わぬところに落とし穴があるものです。

以上、第2回に渡る経済から歴史を学ぼうでした。

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