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経済から歴史を学ぼう(前編)

経済から学ぶ歴史

経済と歴史は密接に絡み合う
いや、むしろ経済が歴史を作り上げていると考えたほうが良いでしょう。

大きな時代の変換期には、必ず経済的な動きが絡んでいます。

例えば、大航海時代は、シルクロードをイスラム帝国に遮断されたことにより始まりました。

商人や旅人がヨーロッパとアジアを自由に行き来することが出来なくなり、経済的大損失が発生したからです。
そのために考えられたことが、新たな航路を開拓することでした。

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織田信長が強かったのはなぜでしょうか。

戦(いくさ)上手だから?優秀な家臣がいたから?運が良かったから?

確かにそれらは当てはまるかもしれませんが、厳密には違います。
織田信長は当時の戦国大名の中でも群を抜いて経済の重要性を理解していました。

楽市楽座(らくいちらくざ)は良い例です。
自由な商売を認め、安土城下(あづちじょうか)は大いに賑わいました。
征夷大将軍や副将軍の地位よりも、堺や摂津(現大阪)の支配権を将軍に求めました。
当時、それらは商業の中心地であり、莫大な税収を見込めたからです。

信長は経済力を生かし、当時高価な鉄砲を大量に入手し、農民兵ではなくプロの戦闘集団を作りました。
農民は本業が農業であったため、まともに戦うこともできません。
しかし、プロの戦闘集団を作ることで、精強な軍隊を作ることが出来ました。

これも侍(さむらい)という職業を確立し、給料を払えたからできたのです。
すなわち経済力のなせることです。

時代を動かしていく力、それは経済が不可欠です。
そしてその力を操るのが、大きな野望やカリスマ性を持った人間たちです。

このように経済面から追っていくと、歴史はもっと面白くなっていきます。

ただ、経済と言うと「難しそう・・・」と構えてしまうものです。

あまり力を入れず読んでみてください。
きっと今までなかった新たな物事の見方が出来るようになるはずです。

それでは行ってみましょう、経済から歴史を学ぼう(前編)です!

お金とはなんぞや

「そもそもお金とは何ぞや?」

私たちの日常は当たり前なことに溢れています。
その最たるものがお金ではないでしょうか。

不思議に思ったことはありませんか。
なぜあんな紙切れで物が買えるのか?

当たり前にお金を払い、欲しい物を手に入れる。
当たり前すぎて気付きもしませんが、ある日突然そのお金がただの紙くずになってしまったら。

その時、私たちはどのような行動に出るでしょうか?想像してみてください。
普段、当たり前すぎて考えもしないお金がもたらす恩恵を、改めて考えてみましょう。

お金の正体とは

現代社会では当然のように使われているお金。

通貨(つうか)や貨幣(かへい)とも呼ばれますが、なぜお金で物が買えるのでしょうか。
ふと考えてみると不思議です。

なぜ紙切れにしかすぎないお金で物を購入し、たかだか紙切れのために他人を騙し、奪い合いまで起きるのでしょうか。

結論を先に述べると、お金には信用があるからです。

例えば日本の一万円札で考えてみましょう。

「一万円を出せば、一万円相当の物を手に入れることができる」

それこそがお金に対する信用です。

この信用が裏切られることなく、誰もが共通認識として持っている感情だからこそ、一万円札は一万円札たり得るのです。

信用とは英語でクレジットと言います。

お金の正体は信用「クレジット」です。

お金の正体が明らかになったところで、次はお金の歴史を覗いてみましょう。

お金の始まり

お金が誕生する以前、人々は物々交換(ぶつぶつこうかん)の手段で欲しい物を手に入れました。

例えば、海辺に住む人は魚を釣る。山に住む人は獲物を狩る。

海辺に住む人が肉が欲しいと思ったら、自分の魚と山に住む人の肉を物々交換することになります。

そのようにして、人々は自分が欲しい物を手に入れてきました。

しかし、時が流れ人々の行動範囲が広くなればなるほど、物々交換では不具合が生じるようになります。

単純に肉と魚を交換したいと思っても、実際に持ち運びするには重すぎるし、腐ることもあります。

さらに、魚を持っている人が肉と交換してくれるとは限りません。
あなたが一生懸命肉を持っていったとします。

「その魚と私の肉を交換しておくれよ。」

「果物だったら交換できるよ。肉はあるからいらないよ。」
と言われたら、諦めるしかありません。

このように思い通りに交換できない時も出てきます。

さらに交換する人によって、物に対する価値感が全く違うという問題もありました。
あの人は魚2匹と肉を換えてくれたのに、あの人は一匹しかくれないなどです。

行動範囲が広がれば広がるほど、交換相手が代われば代わるほど、物々交換の限界が生じ始めたのです。

そこでまず使われたのが、米です。

「米一俵にこれくらいの価値がある」という共通認識をつくりました。
米をお金代わりにしたのです。

肉を米に換えてしまえば、その米で魚にも果物にも交換できるようになります。
まさに米はお金の代わりを果たすことになったのです。

米は非常に貴重な食べ物です。
米に対する信用は絶大です。
信用があるからこそ、米はまさにお金のような物として扱われました。

このことから、お金が生まれる以前から、クレジット(信用)の概念があったと言えます。
言い換えれば、物と物の交換には信用が大前提になければならないのです。

ところがやはり米も持ち運びには苦労しました。

「米に代わり、何か便利なものはないか」

人々は自然にそのような考えを持ち始めます。

貨幣(かへい)の誕生

物の代わりに持ち運びやすく扱いやすい貨幣(お金)は、実は紀元前から使われていたようです。
進んだ文明では、塩や美しい貝を貨幣代わりに使用したそうです。
大昔から、物と物の交換のために、あらゆるアイデアが出されてきたのでしょう。

日本では、有名な和同開珎(わどうかいちん)が本格的な貨幣の始まりです。
律令体制が始まったころから使われ始めました。奈良時代のことです。
※それ以前、天武天皇(てんむてんのう)の頃に、富本銭(ふほんせん)という日本初の銅銭が使われたようですが、どのくらい普及していたかはわかっていません。

和同開珎は、唐(とう)の開元通寶(かいげんつうほう)にならって作られました。
当時の唐は、シルクロード(絹の道)によりヨーロッパ諸国とつながり、盛んに商人や旅人が行き来していました。

ヨーロッパとアジア間の果てしない距離、そして価値観の違う異国異文化。
そこで行われる商売の手段として、開元通寶(かいげんつうほう)が用いられました。
真ん中に穴が開き、紐(ひも)を通して持ち運びしやすいとう利点もありました。

当時の唐はアジアの大国です。

唐は律令国家として、皇帝の名の下に大帝国を築いていました。
言うなれば、唐への信用は絶大です。
唐が発行する開元通寶は信用があるからこそ、異国の人間たちも売買の手段として使用できたのです。
根本にあるものはやはり信用です。

日本の和同開珎は、唐の開元通寶を真似て作ったものです。
しかし、それまで物々交換が主流だった日本国内では、なかなか和同開珎の流通は進みませんでした。
国内でもそのような状態ですから、外国から見た和同開珎はもっとあやしまれたかもしれません。
律令国家として歩み始めたばかりの日本。
そんな日本が、アジアの大国、唐と同程度の信用を得るのは並大抵のことではありませんでした。

信用と保証

ここまでの話をまとめますと、何かを欲しいと思ったときに、自ら生産手段を持たなければ、他人から譲ってもらうしかありません。
そこで始まったのが物々交換です。

しかし、行動範囲が広がり、様々な物が物々交換の対象になると非常に大変です。

そこで米や布を基準に売買が行われました。
米や布がお金の代わりとして使われたのです。

やがて持ち運びに便利な貨幣(かへい)が考えられるようになりました。

魚に対する肉、米、これらは安心して自分の物を譲れる見返りです。
貨幣にもこの見返りが必要です。

その見返りこそ、貨幣で好きなものが買えるという保証です。
つまり、信用です。

金(きん)が共通の価値となる

日本では、和同開珎の後、様々な貨幣が作られました。

徳川家康が幕府を開くと、貨幣の統一に着手します。
大判、小判、金貨、銀貨など国内で一定の価値基準を定め、流通させました。

金や銀が素材となっているので、貨幣そのものに価値がありました。
よって、和同開珎のように「これで物が買えるの?」というような疑問は生まれませんでした。
※江戸の街では、金銭を作る場所が金座(きんざ)銀銭を作る場所が銀座(ぎんざ)と呼ばれました。
現在の東京にある銀座は、そのまま地名として使われるようになったのです。

金や銀は加工しやすく、価値も安定しているので貨幣として流通させるには非常に良い素材でした。
ただ、加工しやすさ故に、金や銀の量をごまかした悪幣が出回り、経済が混乱することもありました。
そしてどうしても重くなってしまうことも、持ち運びの面ではマイナスでした。

こうして誕生したのが紙幣(しへい)です。
紙のお金です。

しかし、たかだか紙切れです。
ただの紙切れに、どのようにして信用を持たせればよいのでしょうか。

そこで考えだされたシステムが金本位制(きんぽんいせい)というシステムです。
次回は、金本位制(きんぽんいせい)の仕組みと管理通貨制度のお話です。

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